ROEにご用心?スパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンドの投資銘柄が公開
ども、こんにちは。
当ブログでも何度か、「日本版スチュワードシップ・コード」について触れましたが、このコードに沿った運用を宣言するファンド「スパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンド」の2015年1月の月次報告が発行されました。
私も気になって、応援も兼ねて購入しました。
どんな銘柄に投資するのか、気になっておりましたが、今月発行の月次レポートでついに、組入れ銘柄が公開です。
運用開始から2か月。そんな資産総額で大丈夫か?
月次レポートはこちらからダウンロードできます。
来月になったら上書きされてしまうので、今月中にダウンロードください。
http://www.sparx.co.jp/mutual/
2015年1月30日の時点で、組入れ銘柄数16、そのうち5銘柄が今回のレポートで公開されています。
株式比率は80%程度。投資機会をうかがっているところでしょうか。
純資産総額が10億未満と心許ない数字となっています。
うーん、これってやっぱり、少ないですよね?
マネックス証券でしか扱っていないうえに、設定後1年は解約制限があり、加えて信託報酬1.836%と高いにもかかわらず成功報酬まで上乗せしちゃっているので、投資家にとっても手を出しにくいのではないでしょうか。
苦言から入ってしまいました。。。
「目的を持った対話」とは? スパークスは企業をどう見ているか
さてこのファンド、運用方針として目論見書に
株価と潜在的な企業価値との乖離が大きく、スチュワードシップ責任に沿って「目的を持った対話」を行うことで、その差が解消される可能性の高い銘柄に選別投資し、積極的にリターンを追求します。
と謳っております。
この文章からすると、
目的=リターン?
でしょうか。
それをどのように実践しているかを見てみましょう。
運用状況について、このような記述があります。
エンゲージメント活動の状況としては、投資先企業1社に対して、IR体制の整備や開示の強化などについての意見交換を行いました。当該企業は昨年起きた企業内での不祥事をきっかけに経営体制の見直しに着手し始めているため、株主の立場から継続的に意見を述べていく方針です。
早速、「目的を持った対話」を行っているようです。
IRは投資家向けの情報開示ですから、この会社は十分な魅力があるのに発信が不足しているとみなしたのでしょうか。
上位5銘柄についても紹介があります。
いつもなら紹介されている企業に着目しますが、今回はスパークスがどのように見ているかに注目してみましょう。
新東工業
優れたビジネスモデルを構築しているにも関わらず、資本効率の改善に手を打ってこなかった結果、同社の株式時価総額は株主資本簿価の半分以下となっています。当社では、現金性資産の有効活用に加え、資本コストに見合わない持合株式の見直し等の財務戦略がROE改善に必要と考えています。
サンゲツ
強い事業基盤を背景に着実に利益を上げる一方で、投資や株主還元には消極的だったことから内部留保が過剰に積み上がり資本効率が低水準に留まっています。2014年4月に経営トップが交代したことをきっかけに資本効率の改善に着手し始めています。株主還元の拡充に加えて、社内基盤の強化に向けて積極投資をし始めたことから、今後は業績拡大が期待できると判断しています。
日本デジタル研究所
同社は強い事業基盤を有していますが、資本効率が低いことや、株主との対話に消極的であることなどから、株式市場における評価が低く、株価は純資産の半分程度に留まっています。当社ではコーポレートガバナンス・コードの制定など、株主重視を求める声が高まる中で、同社の企業姿勢が変化する可能性がある点に期待しています。
トーカイ
ヘルスケア関連事業からの安定した利益とキャッシュフローを享受している近年においてもなお、非常に保守的な財務運営を行っています。その姿勢が強固なバランスシートをもたらしたと評価できる一方、現在の株主還元策は同社の実力に比して不十分であり、拡大余地があるのではないかと当社は考えています。
ヤマハ
今後は更なる事業発展のため、企業ブランドを高めていく方針を掲げており、多角化によって希薄化してしまったブランドイメージが鮮明化していくことが期待されます。また資本効率の改善についても意識が高まっていることから、株式市場においても楽器の世界トップメーカーに相応しい、高い評価がなされることを当社では期待しております。
いかがでしょうか。
資本効率・ROE・内部留保・株主還元あたりがキーワードではないかと思います。
うーん。。。
正直、私はこのレポートを見て、不安を感じております。
ROEの落とし穴!?「物言う株主」再来の危険性
資本効率とは要するに、投入した資本に対して生んだ利益がどのくらいかということで、その指標となるのがROEですね。
ですのでROEの分母には資産、分子には利益が含まれます。
ROEは投資家が銘柄の良し悪しを判断するメジャーな基準の一つと言われています。
最近設定されたJPX日経400指標がROEを基準に対象銘柄を選定しているように、金融庁や東証はROE推しの様子です。
同じ利益なら少ない資産で生み出せた方が、確かに優良に思えますね。
ですが、ここには落とし穴があります。
ROEを高めるには、内部留保を事業投資に回し、利益を伸ばすのが王道ですが、分母である資産を減らしてもROEは上がります。
利益を伸ばすには工夫や努力が必要で、時間もかかりますが、資産を減らすのは簡単です。
リストラをし、収益性の低い部門や拠点を売り払い、設備も人材もアウトソース化すればよいのです。
内部留保も事業投資に回さず分配しちゃえば、投資家も喰いつきます。
これが金融危機前後に、アメリカで起きていたことです。
同じころ日本でも、村上ファンドのような「物言う株主」が話題になっていました。
ここまで書いたことは全て受け売りです。
2007年に出版された原丈人「21世紀の国富論」に書かれています。
私はこの本をきっかけに、投資家に憧れるようになりました。
2013年に「増補版 21世紀の国富論」が発売され、私も今現在、読み進めているところです。
ピケティの本と名前が似ているのでご注意ください。
また、原丈人氏の最近のインタビューは、こちらから、無料で読めます。
原丈人氏・特別インタビュー「日本再生の鍵を担う『公益資本主義』」
ピンチかチャンスか?
スチュワードシップ・コードの未来は投資家次第
先日書いた、ひふみ投信の大型株投資宣言の記事で触れたとおり、ROE向上もスチュワードシップ・コードも、狙いは「消費や投資にお金が回る」ことです。
うまくいけば企業の内部留保が研究開発等の事業に投資され、新たなビジネスが生まれ、収益が投資家や従業員に還元され、消費が伸び、経済が成長し、社会が豊かになるはずです。
しかし、短期的な視点で目先の数字を追えば、企業はスポイルされ、その資産は一部の投資家に奪われ、社会資本が失われ、国の衰退となります。
「目的を持った対話」の「目的」の良し悪しが問われますが、残念ながらスチュワードシップ・コードにはあまり深く言及されておらず、歯止めは期待できません。
そうならないために個人投資家ができることは、良いファンドを選ぶことでしょう。
いい会社を定量的にも定性的にも評価し、その会社がいい会社であり続けるために、金銭的リターンだけではない「目的を持った対話」のできるファンドにお金を託すことで、ようやく、うまくいくのではないかと思います。
スパークスについては基本的に期待していますが、今後おそらく、スチュワードシップの名のもとに、短期的な利益を追って企業をスポイルしてしまうファンドが現れることでしょう。
そのようなファンドは耳触りのよいコピーと一見高いリターンで着飾っているかもしれません。
アクティブファンドに投資する投資家も、アクティブに情報を集めて判断しなければなりませんね。
がんばろう。
ではでは。